「売る」と「買って貰う」、上手に使い分け

 少し前の事ですが、アメリカの学術機関誌に、
 「ストラディバリウス」などバイオリンの名器の音色が、
 現代の楽器と大差ないという実験結果が発表され、話題になっていました。

 演奏家の垂涎の的とされ、数億円という高値で取引されると噂される名器が、
 アマチュアが使う、手頃な価格のバイオリンの響きと大差ないことだとすると、
 これまで褒め称えていた理由を疑いたくなりますね。

 日本には、多くの楽器メーカーが存在し、
 世界的にも評価の高い楽器を数多く世に送り出しています。
 この実験の真偽の程はわかりませんが、
 間違いなく言えるのは、世界中の楽器メーカーがしのぎを削り、
 品質の向上をめざした努力の結果であるということです

 その中でも、ポップスやロックに利用されるシンセサイザーなどの、
 電子楽器に関して、日本はトップクラスといっても過言ではないでしょう。
 その一翼を担い、電子音楽の発展貢献しているのが、
 電子楽器メーカーのローランドです。

 音楽好きであった梯郁太郎氏が、自身の夢を叶えるために、
 楽器作りをはじめたことが、その事業の始まりになります。
 若くして結核を患い長い療養生活の後、職探しをしたものの見つからず、
 諦めて自ら電気製品の小売店を開くことにしました。

 ある時、電子オルガンに興味を惹かれ、仕組みを調べてみると、
 案外、簡単に作れそうに思えてきました。
 「電気屋は楽器のことがわからない、逆に楽器屋は電気の事を知らない」
 このことを解消できれば、大きなビジネスに結びつくかも知れない。

 そう思うと、居ても立ってもいられない気持ちに駆り立てられ、
 日本で最初の電子オルガンを送り出したい願望がふつふつと湧いてきました。
 資本を仰ぐため共同で会社を設立して、電子オルガンの製造を始めますが、
 新しい製品であるだけに取引が少なく、苦しい経営を強いられることになります。

 暫くして、需要のあるギターアンプに製造を切り替えたところ、
 折からのグループサウンズのブームにより、
 若者の間にはエレキギターが大流行します。
 当然の事ながら、ギターアンプも飛ぶように売れ、
 事業は一気に拡大することになるのです。

 しかし、共同経営者との意見の食い違いから、この会社を飛び出し、
 新しくローランドを立ち上げて、再出発をすることになるのです。
 いちから出直しのため、
 ギターアンプやリズム楽器を手がける事からはじめます。

 売り先も作り方もわかってはいましたが、お金が無いため派手な営業はできず、
 現金取引の約束で値引き販売しコツコツと事業の足元を固めていったのです。
 しかも、自転車操業が続く中、2年目にはシンセサイザーを完成させ、
 5年後には世界に先駆けギターシンセサイザーを世に送り出したのです。

 「名職人は、良い経営者になれず」
 経営とは、妥協なくして成り立つことはありえません。
 作品(仕事)の出来具合に固執するあまり、
 妥協することを拒むと経営としては立ち行かなくなります。

 経営が上手くいっていないと思ったときは、
 あっさりと売れている形を取り入れることが一番の方法です。
 「人よりいい物を売りたい」「人と違ったものを売りたい」
 そんな気持ちは、一旦抑えて素直に「買って貰う」ことに徹しましょう。

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