首都圏の有名企業は言うに及ばず、地方都市で活躍する会社の中でも、
講演や記事で紹介される会社だけが、
見本となる経営をしているわけではありません。
ともすると、知名度やマスメディアの露出に見目が向き、
本質がわからないまま、「良い経営」だと、
思い込んでしまっている場合もよくあることです。
加えて、会社の規模が大きくなればなるほど、
効率化という大命題は避けて通ることはできず、
これを前提にした経営方法に偏って紹介されています。
一方、私たちのお客様となっている会社の中にも、
小規模ながら、すばらしい経営を行っている会社がたくさん存在します。
その特徴は、ほとんどの会社が「非効率」経営を行っていることです。
この場合「非効率」というのは、経費を無駄に使うということでなく、
多くの手間をかけたり、仕入や品揃えに費用や時間を割くことを意味しています。
いわゆる「手間暇」をかけ、大企業の採算ラインに合わない、
商品(製品)やサービスを提供することで、高い利潤を生み出しているのです。
03年に上場して、大企業の仲間入りとなりましたが、
書店、雑貨販売のヴィレッジ・ヴァンガードが、
非効率の見本とした経営を続けています。
現在は、ショッピングセンターなどへの出店が多くなり、
画一的な品揃えになってきましたが、
書店らしからぬ店舗の中には、本よりも雑貨が溢れ、
若者の興味をそそる商品が品揃えされています。
もともとは、創業者の菊池敬一氏の、「新刊やベストセラーに頼らず、
売りたいものを、判ってくれる人だけに売りたい」という思いがありました。
「そのためのプレゼンテーションに知恵を絞る」と経営をスタートしたのです。
通常は取り寄せになるようなマニアックな作家の特集を組んだり、
小さな出版社が発行する書籍を100部単位で注文を出し、
長い期間をかけ売り切ることもします。
また、有名な小説に登場する、人物や場面に関連する書籍やグッズを取り揃え、
好奇心による衝動買いを誘います。
返品が出来ない本に関しては、売り切る為に細心の注意が必要となりますし、
可能であっても、ほとんど売れず残ってしまった本については、
膨大な返品作業が待ち受けることとなります。
そんな、手間暇かける販売業務に追われつつも、店舗を増やし続けてこれたのは、
菊池氏の持って生まれた才覚なのかもしれません。
ご本人は、本業についての臭覚は犬以上、経理についてはさっぱり、
と仰っておられますが、言葉通りではないようです。
長く続いていた赤字状態のときにも、(ご本人曰く)判らないながらも、
売上・支払のお金の流れに注目して、売上金の範囲で支払先の順番を工夫するなど、
資金がショートしないよう工夫をしています。
経理に関しても、上場する少し手前まで、
ご本人が書類の整理等をおこなっていたそうです。
赤字続きで、事務員を雇う余裕がなかったと仰っていますが、
シンプルに経理をこなすという発想があったからでしょう。