コンポ(コンポーネントステレオ)という言葉を知っておられますか、
お父様の中には覚えている方も多いのではないでしょうか。
かつて、いい音で音楽を聴きたければ、プレーヤーやアンプ、
スピーカーなど様々な機器をつないで、
ひとつのセットとして組み立てる必要がありました。
音楽雑誌には、高級車一台では足らないくらいのお金を掛け、
部屋いっぱいに装置を積み上げた「オーディオ・ルーム」が紹介されていて、
子供ながらに憧れ、羨ましく思っていた記憶が蘇ります。
一方、騒音の問題もあり、それなりに広い部屋が必要となれば、
音楽に興味の無い家族にとっては、迷惑以外の何物でもありませんでした。
ソニーからウォークマンが発売され、
ヘッドホン・ステレオというスタイルが定着してからは、
そういった事はあまり気にせず、一人だけで音楽が楽しめるようになります。
現在では、携帯音楽プレーヤーやスマホに曲を取り込み、
好みの音の設定で楽しめるようになっています。
便利になった反面、サイズを小さくする為、
データは(デジタル技術的に)細切れにされ、
音質は劣化する一方になってしまいました。
ヘッドホン・ステレオの元祖ともいえる、電機メーカーのソニーでは、
CDの約6.5倍の情報量をもつ、ハイレゾ音源に力を注いでいます。
業績回復の起爆剤として、
高音質な音楽で気持ちを引き戻そうと勝負に出ています。
コンポからヘッドホン・ステレオへ、アナログからデジタルへ、
使いやすくて、良いものに進化したはずが、
大事なものがそぎ落とされてしまったようです。
目まぐるしく進化を繰り返してきた、
オーディオ機器の次なる行き先が気になるところです。
アナログ全盛であった、70年(昭和46年)。
当時社長であった井深大氏によって、
中島平太郎氏はソニーに招き入れられます。
それまでの研究の実績を見込まれての入社でありましたが、
胸の中には、音楽のデジタル化への思いが消えずに残っていました。
オーディオ好きの井深氏は、何よりのアナログ主義で、
それに反するデジタルの研究の事は、
大きな声で口にできるはずもありません。
そこで、アナログオーディオの製品開発を進める傍ら、
恐る恐るデジタルの研究チーム集めを試してみたのです。
社内からは、事ある度に「予算の無駄遣い」と批判されながらも、
コツコツと研究を進めていきます。
家庭用ビデオを改良した、デジタルオーディオ機を完成させ、
試験的に顧客の反応を見させてもらえないかと頼み込み販売にこぎつけます。
40万円を超え、決して一般向けとは言い難い価格ながら、
オーディオファンや大学の研究室、FM放送局などから注文が入り、
目標であった500台を完売することが出来たのです。
更にあることがきっかけで、アナログからデジタルへ、
風向きが一気に変わることになったのです。
77年、公演で来日していた世界的な指揮者のカラヤン氏に、
この製品で演奏を聴いてもらえる機会を得ます。
自身がタクトを振るオーケストラのリハーサルをデジタル録音した音に、
感銘を受けたカラヤン氏は、デジタルを支持すると言ってくれたのです。
追い風を受けて、製品化に向けて開発の速度は早まりました。
記録技術で先行している外国メーカーと提携することになり、
録音技術や記録方式、規格など、徐々に形が仕上がっていきます。
こうして、82年世界で初めてCDプレーヤーを世に登場し、
世代交代が一気にやってくることになったのです。