電機メーカーのソニーは「ベータ」方式の家庭用ビデオカセットの出荷を、
来年3月末で終えると発表しました。
40年前に家庭用ビデオの新しい規格として登場し、
「VHS」と主導権を巡った争いは熾烈そのものでした。
新しい技術が普及の後押しを受ける段階になると、
必ずといって良いほど、規格を巡る主導権争いが起きます。
少し前では、「次世代DVD」の登場の際には、
「ブルーレイ」と「HD DVD」の、
二つの規格があったのを覚えておられるでしょうか。
さて、「VHS」と「ベータ」のビデオ・テープの規格争い。
製品の開発に一歩先に出たソニーの「ベータ」に、
巻き返しを図るビクターの「VHS」の猛攻勢はすさまじいものでした。
当時のビクターは業界8位の中堅メーカーにしか過ぎませんでした。
技術力の高さはソニーがダントツで、
かなり水をあけられる形で松下が入り、次にビクターがついてくる。
「そんな会社が、家庭用ビデオを作れるとは到底思えない」
と言うのが世間での評価でした。
また、社内でも新しいビデオ開発には見切りをつけ、
業務用ビデオの改良・販売をおこなっていくことに方針転換したのでした。
「他社に先を越されれば、
ビデオ事業にかかわる社員、協力工場すべてが仕事を失うことになる」
当時の事業部長がこう決意したことから、
本格的に家庭用のビデオ開発に取り掛かることになります。
それは、本社には黙って「秘密開発部隊」としてスタートしたのです。
一度も黒字を出したことのない部門、
業務用ビデオを売り歩き、自らの給与を稼ぎながら、開発を進めていきます。
また、理由をつけ、売れる見込みのない業務用ビデオを生産し続け、
事業に携わる人々の首を繋ぎます。
在庫は溜まりにたまり、月商の7、8ヶ月にもなりました。
本社からの借入金は年商をはるかに超え30億円以上に…
金利は6、7パーセントだったので、
通常の会社なら既に倒産していてもおかしくない状況でした。
ソニーに遅れること、1年5ヵ月後
ビクターは家庭用ビデオを発売することが出来ました。
対抗策として、ビクターが取ったのは、技術を他社に公開することでした。
日立、松下をはじめとするVHS規格に賛同する企業に、
試作品を貸し出し、生産ラインまで公開することとしたのです。
その結果、VHSが家庭用ビデオ規格の主導権を握ることとなったことは、
皆さんがご存知のとおりです。