近頃、「アラ卒」本なるものが、話題になっているそうです。
「卒」とは卒寿をあらわして、90歳前後の著者の作品のことを指します。
題材は、料理や育児、エッセー、写真集と様々にのぼっており、
テレビ番組で紹介されたことがきっかけで、
長年書き溜めた絵日記を出版することになった93歳のお爺ちゃんもいます。
90歳といえば、大正11年。この年に発刊された、
絵本がこれまた話題になっています。
題名は、「コドモノクニ」。
製作に係わった作家陣のそうそうたる顔ぶれもさることながら、
デジタルには無い、印刷の美しさが人気を集めています。
最先端の技術を使い、当時としては珍しい5色印刷で刷り上げています。
野口雨情、北原白秋など、日本を代表とする作家が童謡や詩を手掛け、
(挿)絵も竹久夢二、東山魁夷らが筆をとっています。
時代にこびない、前衛的、哲学的な内容が新鮮に目に映ります。
しかし、戦争による物資難の影響により「コドモノクニ」は、
昭和19年(1944年)に廃刊となります。
平成も20年を超え、昭和という時代が遠くなるにつれて、
昭和20年以後に生み出された文化や情景にも、
大切にしないといけない機運が高まってきました。
先ほど、こちら地元では、建設後おおむね50年以上が経過し、
市民が残したいと思う歴史的な建物や庭園を、
「京都を彩る建物や庭園」として公募する制度が始まりました。
国指定や登録の文化財、府指定、市町村指定の文化財以外でも、
住民の目線から、大切だ、残しておきたいと思うものを選ぶものです。
この中に、日本の煙草王 村井吉兵衛氏がヨーロッパの様々な、
建築様式を取り込んで建築した迎賓館、「長楽館」が含まれています。
鎖国がとかれ、それまでキセルを使って吸っていたタバコは、
紙巻タバコという形になって日本に入ってきます。
舶来品に負けじと、国産で最初に紙巻タバコ、
「天狗印」を世に送り出したのは、東京の岩谷松平氏です。
それに遅れはしたものの、新しい製法を用いて、
京都の村井氏が「ヒーロー」を発売します。
国産の葉タバコを主流とした岩谷氏は、
赤いシルクハットにフロックコートのいでたちで、
赤色の馬車で町中を回ります。
銀座にある店も真っ赤に塗り「赤ずくめ」で人目を惹きつけました。
一方、村井氏は輸入葉タバコを原料として、
高級品として「ハイカラ」なイメージの広告を試みます。
音楽隊を引き連れ、商品名を書いたノボリを掲げた馬車を連ねて
宣伝パレードを行います。
両者は、互いに一歩も譲らない、広告合戦を繰り広げます。
包装紙や商品のパッケージの印刷、宣伝ポスター、
おまけとしてパッケージに入れた美人画など、
それまでには無かった、印刷を駆使した宣伝のはしりとなったのです。
しかし、国産のタバコが登場してわずか10年、
明治後期、それまで民営だったタバコの製造販売は、
国が独占して行う「専売制」に切り替わってしまうのです。
強者たちが戦いを繰り広げたのは束の間、
利権もろとも国に取り上げられてしまいます。