デジタル音源が全盛の今、アナログ・レコードといえば、
クラブ系のミュージシャンがミックスのアルバムを発売するくらいでした。
最近では、著名ミュージシャンもアナログ・レコードで、
新譜を発表するようになり、アナログ音楽に注目が集まっています。
アナログの人気はカセットテープに波及して、
ラジカセ(ラジオ付きカセットレコーダ)の人気が上がっています。
これまでのシニア層に加えて、若い世代の購入も増えて、
曲をスキップせずじっくり聴く新鮮さが受けていそうです。
ラジカセが全盛だった当時、室内、屋外問わず、
音楽はみんなで聴いて楽しむもの。
または、人目を気にしながら小さな音でコソッと聴くものでした。
ヒップホップ系のミュージシャンが、70年代をリバイバルするように、
大きなラジカセを肩に背負いながら音楽を聴く姿のPVがありますが、
あんなことは、図太い神経が無ければとても出来ないことでした。
(カセット)ウォークマンは、音楽好きな学生にターゲットを絞り、
屋外でも音楽を(気兼ねなく?)楽しめる様に企画されたものでした。
それゆえ、学生がアウトドアを楽しむ時期にタイミングを合わせるため、
夏休み前の7月1日に発売されたのです。
「屋外で周りを気にせず音楽を楽しむ」という大胆な試みは、
些細なことが始まりでした。
それは、発売されていた小型のカセットレコーダ「プレスマン」を改造して
ステレオで聴けるようにしたことがきっかけだったのです。
音楽はステレオで聴くのは普通のことです。
そのためには、スピーカーが2つ以上必要になって、
ラジカセのスタイルになってしまい、
小型化には不向きだと考えられていました。
それならば、不要な機能は思い切って削ってしまえばいいのではないか、
という発想に切り替えて、録音機能やスピーカーを取り除き、
ステレオの再生機能を加えて、ヘッドフォンで聴けるようにしたのでした。
でも、新しいカセットレコーダの社内での評判は最低でした。
「再生機能しか付いていない、中途半端なカセットレコーダを誰が買うのか」
新しい技術に基づいて、新製品を開発して成長してきた
ソニーを自負する社員にとって、子供騙しにしか思えなかったのです。
発売当初は、全くと言っていいほど売れなかたものの、
流行に敏感な若者を刺激するような広告や
ファッション性に重点を置いた宣伝活動が功を奏し、
発売の年の秋から年末にかけては、爆発的な大ヒットとなるのです。
その後、ウォークマンは携帯型のカセットプレーヤーの
代名詞となる程のロングセラー商品となります。
ヒットのもうひとつの要因は、価格の設定にあります。
ウォークマンの場合、若者、特に学生をターゲットとしたため、
お小遣い程度の金額で買える必要がありました。
売る側の立場からすると、出来るだけ早くコストを回収したいため、
原価や経費に基づいて販売価格を決めてしようとします。
製造に掛かるコストや開発、改良の費用などを基にして、
販売価格を決めると製品のイメージに反して高くなりがちです。
「いいけど、高すぎる」と思われると、それは失敗で、
「高いけど、さすがだ」と思ってもらわないといけないのです。