お知らせ

 今回は相談事例を通じて、熟慮期間経過後に発覚した借金の相続放棄についてご紹介します。

 隣町の町役場から納税義務承継通知書が届きました。内容を確認したところ、20年来没交渉であった父が亡くなったとのことです。
 法定相続人は母と子である私と妹の3名になりますが、母と妹も私と同様にこの20年間、父とは一切関わりはありません。通知書に記載のある金額については母が支払ったものの、その他の父の財産については何も分かりませんでしたので、相続に関し、特にそれ以上の対応はしませんでした。
 ところが、3ヶ月ほど経過した後、消費者金融から父が借り入れたとする計300万円の支払督促が届きました。どうやら、父は行方をくらました後に借金を作っていたようです。とてもではないですが払える金額ではないので、相続人全員で相続放棄をしたいと考えています。果たして可能でしょうか。

 相続放棄に関して、民法第915条1項は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、……放棄しなければならない。」と期限を定めています。そのため、相続の開始を知ったとき(=納税義務承継通知書を受領した時点)からすでに3ヶ月の熟慮期間が経過しているご質問のケースでは、原則として相続放棄を行うことはできないようにも思われます。

 もっとも判例は、相続人が負の相続財産である被相続人の保証債務の存在につき、相続の開始を知ってから1年後に認識するに至ったという事案において、相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるにあたり相当な理由がある場合には、当該保証債務の存在を認識した時または通常認識し得た時を相続放棄の熟慮期間の起算点とすることを認めています(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。

 この点、ご質問のケースは相続財産が全く存在しないと信じていたのではなく、そもそも被相続人にいかなる財産があったのかを認識していなかったのであり、上記の判例とは事情を異にしています。しかし、相続人に対し相続財産の内容を把握した上で放棄すべきか否か判断する機会を与えるのが判例の趣旨だとすれば、今回のケースにおいても貸金債務の存在を認識した時点からの起算が認められる可能性はあるといえます。
 したがって、相談者様の相続放棄についても認められる可能性があります。

 ただ、相続放棄にあたっては、相続の発生を知ってから3ヶ月以内に申述するのが原則的なルールとなりますので、例外的に3ヶ月経過後の相続放棄を認めてもらうためには、申述書において、(1)いつ相続の開始を知ったのか、(2)どのような理由によって3ヶ月以内での相続放棄ができなかったのか、言葉を尽くして説明する必要があります。

 なお、相談者様のお母様は被相続人の税金を支払っていますが、お母様がご自身の財産でこれを支払う分には、法定単純承認事由としての「処分行為」(民法第921条1号本文)にあたらないため、相続放棄ができなくなるものではないと考えます。

 

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
 本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。

 2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが、事業承継税制の適用はどうなりますか?

 今年(2022年)3月に高校を卒業して4月に大学生になった孫(18歳)へ、私が経営している会社(非上場会社)の株式を年末あたりに贈与しようと思います。
 『事業承継税制』なるものを利用すれば贈与税が免除されると聞いたので、利用したいのですが可能でしょうか。

 2022年4月1日以後の『事業承継税制』の適用に係る贈与に関しては、年齢要件が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられましたので、年齢要件としては満たされます。ただし、その他の要件が満たされるか否かの判断が必要です。

1.事業承継税制とは

 後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度があります。これを「法人版事業承継税制」といいます。

 ご質問の『事業承継税制』は、この「法人版事業承継税制」を指します。

 法人版事業承継税制を適用するには、様々な要件を満たさなければなりません。その1つが受贈者の要件です。

 受贈者の主な要件として、贈与のときにおいて、次のすべての要件を満たす必要があります。

  • 会社の代表権を有していること
  • 18歳以上であること
  • 後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
  • 一定の議決権数を後継者が保有することとなること
2.成年年齢引下げに伴う改正

 受贈者の年齢要件は、2022年3月31日以前の贈与については「20歳以上」でした。

 これは民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴う改正です。

 贈与税の特例税率の適用とは異なり、贈与の日における年齢で判断することとなるため、注意する必要があります。

3.ご相談のケース

 ご相談のケースは、年末に贈与の予定とのことですので、上記受贈者の要件のうち年齢要件としては満たされますが、その他の要件を満たすのかをご確認ください。

 なお、受贈者の要件の他、贈与者の要件、会社の要件、円滑化法の認定など様々な要件があります。事業承継税制に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

<参考>
 国税庁HP「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和4年5月)」PDF、「民法の改正(成年年齢引下げ)に伴う贈与税・相続税の改正のあらまし」PDFなど

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
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2022年8月1日

夏季休業日のご案内

弊事務所では、下記期間を休業とさせて頂きますのでご案内いたします。

休業期間中は何かとご不便をお掛けすることと存じますが、
何卒よろしくお願い申し上げます。

■夏季休業日 8月11日(木)~8月16日(火)

 夏休みに入り、小さなお子様をお持ちのお父さんお母さんは、
 日中の過ごし方に、頭を悩ませる時期となりました。
 連日に亘る猛暑の中、外へ遊びに出すことも出来ず、
 家の中にいると暴れ放題…といった始末に。

 そこで、学校が休みに期間を狙って、盛んに行われているのが、
 鉄道沿線を巡る「スタンプラリー」です。
 JR各社が行っているテレビアニメを題材にした、
 スタンプラリーが有名なところでしょう。

 私鉄系のスタンプラリーでは、人気ゲームのキャラクターも加わり、
 ますます盛り上がりを見せています。
 また、今年は旧国鉄が開業して150年を、
 東急が100周年を迎える記念の年となっており、
 記念入場券の販売や特別ツアーなど様々なイベントが企画されているそうです。

 京都に電車が登場したのは、明治28年のことです。
 首都である東京に先立ち、日本初の電車として
 路面電車を走らせたことが始まりとされています。

 その後、その路面電車は京都市の公営として、
 市街地中心部および南部を走る
 「市電」として運営されるようになります。

 「嵐電」は京都市西部と市電の運行区域を結ぶ、
 交通手段として1910年に開業します。
 当時、電車を運営する会社の多くは電気の供給事業も行っており、
 嵐電も電気の供給事業会社(現在の電力会社)に吸収され、
 住民への電気供給と、交通の足として発達していく事になります。

 しかし、マイカーの普及と共に乗客数は減少を辿り、
 市電の廃業も加わり経営は日増しに苦しくなっていくのです。
 現在は、大阪市南部と京都、滋賀を結ぶ鉄道、
 「京阪電気鉄道(京阪)」のグループ会社となっています。

 明治の経済界を引っ張って活躍し、
 「銀行の父」と称された渋沢栄一氏らの掛け声の下、
 並行する国営鉄道(現在のJR)に対抗する鉄道として発足したのです。

 京阪の運営も決して順風満帆ではありませんでした。
 自社路線に並行する路線を他社に開業させることを阻止するため、
 大阪市北部から京都、奈良、和歌山を結ぶ各路線を開業しようとしましたが、
 不況により計画は頓挫し、いくつかの路線は他社に明け渡すことになります。

 一時、戦争による政府の統制により
 「阪急電鉄(阪急)」と合併することになりますが、
 戦後、再度分離する際には、残った大阪市北部から京都を結ぶ路線を、
 阪急に明け渡すことになってしまうのです。

 最初の名は、箕面有馬電気軌道という名で、
 大阪と紅葉名所や温泉地を結ぶ、遊覧鉄道と見られていました。
 しかし、その鉄道は小林一三氏の斬新なアイデアにより、
 後の阪急電鉄と変身するのです。

 新しいインフラの誕生と、直後の乱立、統合から淘汰への流れは、
 インターネットや携帯電話に係わる事業の流れと重なってしまいます。
 成長分野へ足を踏み入れることは、企業の成長にとって大切なことですが、
 その後には同じような流れがあることをお忘れなく!

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