お知らせ

認知症の疑いがある方でも遺言作成は可能か

今回は相談事例を通じて、認知症が疑われる人の遺言作成に関する留意点について、ご紹介します。

Q
今月のご相談

 最近、父の物忘れがひどくなってきており、同じ話を何度も繰り返すようになっています。
 認知症の診断は受けていませんが、昔に比べて明らかに様子が違います。父とは同居しており、住んでいる家(父名義の不動産)を私が相続したいと考えています。ただ、兄弟とは仲が悪く、遺産分割で揉める可能性があります。遺言を書いてもらいたいのですが、父の今の状態で有効な遺言は作れるのでしょうか。

A-1
ワンポイントアドバイス

 認知症の疑いがある方でも、遺言能力(意思能力)を有している限り、遺言を作成することは可能です。遺言能力とは、遺言者が自身の財産状況や相続関係を理解し、遺言内容を合理的に判断できる能力を指し、民法第963条及び第961条に基づく遺言の有効性の前提条件とされています。加えて、民法第3条の2では、「法律行為の当時に意思能力を有しない者がした法律行為は、無効とする」と規定しており、遺言もこの意思能力の有無によって有効・無効が判断されることになります。

A-2
詳細解説

 実務上、遺言能力の有無が争われた場合には、医学的診断結果、遺言内容の複雑性、動機の合理性、作成の経緯などが総合的に評価されます。たとえば、同居している子に不動産を相続させたいという動機は生活実態に即しており合理性が認められやすく、内容も単純であれば、遺言能力が肯定される可能性は高まります。

 しかし、これらの条件を満たしていても、認知症の周辺症状(妄想、せん妄、感情の不安定さなど)が強く現れている場合には、意思能力が否定され、遺言が無効と判断される可能性もあります。認知症は進行性の疾患であり、今後さらに認知能力が低下することが予想されるため、遺言の作成はできるだけ早期に行うことが望ましいといえます。

 その際には、公正証書遺言の作成が有効であると考えられます。公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思能力を確認した上で、証人2名の立会いのもとで作成されるため、形式的・実質的な信頼性が高く、後日その有効性が争われるリスクを大きく低減できます。また、原本は公証役場に保管され、家庭裁判所の検認も不要であるため、相続開始後の手続きが円滑に進みます。特に認知症の疑いがある場合には、公証人による意思能力の確認が第三者の証明となるため、遺言の有効性がある程度担保されます。

 加えて、たとえ有効な遺言が存在していても、作成の経緯や背景、その内容によっては遺留分侵害額請求(民法第1046条以下)や、不当利得返還請求などの法的争いに発展する可能性があります。そのため、単に遺言を作成するだけでなく、内容や作成方法にも工夫があるとよいでしょう。

 具体的には、公正証書遺言にして専門家(行政書士・司法書士・弁護士等)に関与してもらうことで、遺言作成に必要な情報の収集や、法的観点からの助言を受けることができ、より実情に則した内容の遺言を作成することができます。また、遺言書の中に「付言事項」を設け、遺言の動機や家族への感謝の言葉を添えることも対策としてよいかと思われます。

 以上のことから、自宅を相続するための方法として遺言は有効な手段ですが、無効となるリスクもあることを理解した上で、公正証書遺言の活用、専門家(行政書士・司法書士・弁護士等)への依頼といった対応を行うと、よりよいかと思われます。

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 本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。
3年過ぎても分割できない場合

相続税の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出したのですが、3年経とうとする現在も未分割のままです。どうしたらよいですか。

Q
今月のご相談

 父が亡くなり、相続人は、子である私と兄の2人です。遺産分割でもめており、当初の相続税の申告は未分割で行いました。その際、分割後に小規模宅地等の特例の適用を受けようと「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出したのですが、それから3年経とうとする現在も遺産に関する裁判中で、未分割のままです。申告期限から3年を経過した後であっても、分割した際に小規模宅地等の特例を適用したい場合は、どうしたらよいですか?

A-1
ワンポイントアドバイス

 一定の書類を期限内に提出することで、3年経過後であっても小規模宅地等の特例を適用することができます。

A-2
詳細解説
1.相続税の申告納付

 相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内に行います。また、申告期限=納期限ですので、相続税の納付も10ヶ月以内にしなければなりません。

 この場合、未分割であれば、各相続人が民法に規定する法定相続分で財産を相続したものとして、相続税の申告及び納税を行うこととなります。

2.申告期限後3年以内の分割見込書

 上記1.のとおり、未分割であっても申告納付することとなりますが、この場合において、分割しないと適用できない次の特例について、申告書の提出期限後3年以内に分割する見込みであることを記載した書類(申告期限後3年以内の分割見込書)を、上記1.の申告書と併せて提出することで、申告書の提出期限後3年以内に分割した際に、当該特例を適用することができます。

  • 配偶者の相続税の軽減
  • 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(小規模宅地等の特例)
  • 特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
  • 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例
3.遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請

 上記2.の手続きを行った後、その申告期限後3年を経過する日後に上記2.の特例を適用したい場合には、上記1の申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することで、3年経過した後の分割であっても、当該特例を適用することができます。

4.ご相談のケース

 ご相談のケースは、上記2.の手続きが済んでおり、次は上記3.の手続きを行うことによって、特例の適用が可能となります。

 期限内に手続きを行わないと、特例の適用を受けることはできません。ご注意ください。

 なお、上記3.の手続きの際には、申請書にやむを得ない事由に応じて以下の書類を添付する必要があります。

  • ①相続又は遺贈に関し訴えの提起がなされていることを証する書類
  • ②相続又は遺贈に関し和解、調停又は審判の申立てがされていることを証する書類
  • ③相続又は遺贈に関し遺産分割の禁止、相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されていることを証する書類
  • ④①から③までの書類以外の書類で、財産の分割がされなかった場合における、その事情の明細を記載した書類

 上記のような書類の準備も必要となるため、余裕をもって準備しましょう。

 上記2.の手続きは、相続税の申告と同時に提出するため提出もれは少ないのですが、上記3.の手続きは「3年経過」ということで忘れてしまいがちです。特例の適用が受けられないと、最終的な相続税額がかなり変わります。未分割の状態が続いている場合には、期限内に忘れず提出をしましょう。

<参考>
国税庁HP「B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」、「B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」など

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 友人の影響もあって、高校生になってすぐに洋楽に関心を持つようになり、
 私にとって、音楽は欠かせないものとなっています。
 さらに、多くの人と同じように楽器にも手を染めることになりますが、
 デジタル・シンセサイザーが普及する前であり、
 当然、ナマ(アナログ)音が中心で、電子音といえばチッポケな音でした。

 その後、爆発的な勢いでデジタルの波が押し寄せ、
 音楽を演奏する側にも、切り離すことができない存在となりました。
 今では驚くことにスマホのアプリでさえ、サンプリングで取り込んだ、
 ナマ音の音程を調整することや、タイミングのズレを簡単に修正できます。

 まるで、プロが使う機器で操作しているが如く、
 手元の操作だけで、演奏のレベルが上がっていきます。
 こんな事を体験すると、なるほどアイドル・グループや
 Kポップ・グループの歌のレベルが高い理由も納得できてしまいます。

 シンセサイザーをはじめとするデジタル楽器が、このように普及したのは、
 統一した規格が決まっているからです。
 2013年のグラミー賞では、「MIDI」という演奏情報を伝送する規格を定め、
 音楽産業の発展に貢献として、音楽機器メーカーのローランドの創業者
 梯 郁太郎氏にテクニカル賞が与えられています。

 ローランドは、音楽好きであった梯氏が、自身の夢を叶えるため、
 楽器作りをはじめたことが、その始まりになります。
 若くして結核を患い長い療養生活の後、職探しをしたものの見つからず、
 諦めて自ら電気製品の小売店を開くことにしました。

 ある時、電子オルガンに興味を惹かれ、仕組みを調べてみると、
 案外、簡単に作れそうに思えてきました。
 「電気屋は楽器のことがわからない、逆に楽器屋は電気の事を知らない」
 このことを解消できれば、大きなビジネスに結びつくかも知れない。

 そう思うと、居ても立ってもいられない気持ちに駆り立てられ、
 日本で最初の電子オルガンを送り出したい願望がふつふつと湧いてきました。
 資本を仰ぐため共同で会社を設立して、電子オルガンの製造を始めますが、
 新しい製品であるだけに取引が少なく、苦しい経営を強いられることになります。

 暫くして、需要のあるギターアンプに製造を切り替えたところ、
 折からのグループサウンズのブームにより、
 若者の間にはエレキギターが大流行します。
 当然の事ながら、ギターアンプも飛ぶように売れ、
 事業は一気に拡大することになるのです。

 しかし、共同経営者との意見の食い違いから、この会社を飛び出し、
 新しくローランドを立ち上げて、再出発をすることになるのです。
 いちから出直しのため、
 ギターアンプやリズム楽器を手がける事からはじめます。

 売り先も作り方もわかってはいましたが、お金が無いため派手な営業はできず、
 現金取引の約束で値引き販売しコツコツと事業の足元を固めていったのです。
 しかも、自転車操業が続く中、2年目にはシンセサイザーを完成させ、
 5年後には世界に先駆けギターシンセサイザーを世に送り出したのです。

 「名職人は、良い経営者になれず」
 経営とは、妥協なくして成り立つことはありえません。
 作品(仕事)の出来具合に固執するあまり、
 妥協することを拒むと経営としては立ち行かなくなります。

 経営が上手くいっていないと思ったときは、
 あっさりと売れている形を取り入れることが一番の方法です。
 「人よりいい物を売りたい」「人と違ったものを売りたい」
 そんな気持ちは、一旦抑えて素直に「買って貰う」ことに徹しましょう。

事業用定期借地権の借地期間延長契約について

相続した賃貸用事業用地について、借主から借地期間延長の申出がありました。この延長について公正証書による契約を求められたのですが、必要なのでしょうか?

Q
今月のご相談

 事業用地として賃貸している土地を相続しました。借主より借地期間の満了が近づいているため、改めて公正証書を作成し借地期間を20年延ばしてほしいとの要望を受けました。当事者間で延長の合意ができたとしても、改めて公正証書での契約が必要なのでしょうか。

A-1
ワンポイントアドバイス

 ご相談のケースは事業用定期借地権に該当し、これには更新という概念がありません。借地期間を20年延ばすためには、改めて公正証書での契約が必要となります。

A-2
詳細解説
1.公正証書とは

 公正証書とは、契約を成立させるため等一定の事項について、公証人が公証役場で作成する公文書をいい、賃貸契約書等のような私文書に比べ、証明力や執行力が優れているという特徴があります。

 ご相談のケースは事業用定期借地権に該当しますが、この契約は借地借家法に基づき、必ず公正証書によって作成することが義務付けられています。

 また、この事業用定期借地権は、更新という概念がなく、契約期間の満了時に借地関係を終了させることを前提とした契約としているため、借主の要望に応えるためには、改めて公正証書での契約が必要となります。

2.なぜ公正証書で作成するのか

 公正証書で作成する目的は、一定の事項を公証人に証明してもらうことで、当事者間の法律紛争を未然に防ぎ、契約内容の明確化・安定化を図ることにあります。

 公証人は、判事や検事等の法律関係の仕事に長年従事していた人の中から法務大臣により任命されます。また、公証人により作成された公正証書の原本は、原則として公証役場で20年間(特別の事由により追加保存の必要がある場合は、その事由のある間)保管されるため、紛失や盗難、改ざん等の心配はありません。なお、貸主借主には、正本または謄本が交付されます。

 公正証書は、公的機関により作成された書面であるため、仮に裁判となった場合、証明力のある証拠書類として提出することができます。また、公正証書にあらかじめ強制執行認諾の内容を盛り込むことで、賃料の滞納が数ヶ月継続して発生した場合、裁判等の手続きを経ず強制執行が可能となります。

3.定期借地権とは

 定期借地権には、事業用定期借地権の他に、一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権がありますが、借地借家法で必ず公正証書での契約が義務付けられているのは、事業用定期借地権のみとなります。

 公正証書で契約せず私文書での合意のみの場合、事業用定期借地権の効力は無効となり、普通借地権が設定された契約として取り扱われる可能性があります。

 仮に、普通借地権として取り扱われた場合、契約の終了後も正当な事由がない限り更新は可能となります。期限付きの賃貸借ではなくなってしまうことにもなり兼ねないため、注意し認識しておくことが大切です。

4.契約時の注意事項

 公正証書での契約にあたり注意すべき主な事項として、事業用定期借地権は契約期間が長期(10年以上50年未満)となりますが、貸主からの中途解約は認められていないこと、また、期間内に借主が破綻する等の懸念があることから、経済的な与信を改めて事前に行う必要があることが挙げられます。今回のご相談のケースでは、20年間の延長となるため、その期間内に問題が生じないかどうかの検討が必要となります。

 さらに、敷金の返還義務が相続人に移ることを想定しておくことも必要となります。敷金は、賃料の6ヶ月程度とする場合が多く高額となるため、相続人が敷金を返還できなくなるというリスクが生じる恐れがあります。

 恐らくご相談者様は、相続により、当該事業用地とともに敷金も相続によって取得しているものと思われます。敷金は預かり金であることを認識し、契約の終了時期に関わらず、すぐに敷金が返還できるようにしておく必要があります。仮に敷金を相続していない、あるいは返還すべき敷金に満たない額しか相続していなければ、返還相当額の資金を何らかの方法によって確保しておく必要があるでしょう。

 この他、契約にあたっては、賃料や契約期間等だけでなく、中途解約、原状回復義務、損害金等について、貸主に不利な事項はないか、契約内容が許容できるリスクの範囲内であるか等に留意する必要があります。今回の借地期間の延長に際して、従来の契約内容と照らし合わせながら、内容に問題がないか確認するとよいでしょう。

 これらの注意事項等を考慮した上で、的確なアドバイスをしてくれる不動産会社もありますので、一度相談されるのも有用です。公正証書による契約でお悩みの場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。

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生命保険の受取人は誰でもいいの?

生命保険の死亡保険金について、受取人は誰でも自由に指定できるのでしょうか?

Q
今月のご相談

 生命保険の契約を考えています。
 死亡保険金の受取人を妻や子以外に指定したいのですが、可能でしょうか?

A-1
ワンポイントアドバイス

 生命保険の死亡保険金の受取人は、通常、戸籍上の配偶者、2親等内の親族又は血族の範囲内とされていますが、保険会社によっては個別事情の詳細を報告することで、内縁関係者や婚約者、その他一定の者を指定できる場合もあります。

A-2
詳細解説
1.受取人の指定と変更

 保険会社の多くは、生命保険の死亡保険金の受取人の範囲として、「被保険者の戸籍上の配偶者および2親等内の親族(血族)」と定めています。ただし、保険会社によっては個別事情の詳細を報告することで、内縁関係にある者、婚約者、共同経営者など一定の者の指定を認める場合もあります。

 今回のご相談のように、通常の範囲外の者を死亡保険金の受取人として指定したい場合は、まず個別にご契約の保険会社に確認するとよいでしょう。
 また、同一契約で2人以上を受取人に指定することもできます。その場合、受取割合は契約者が指定します。

 なお、受取人の指定は契約申込み時に契約者が行いますが、契約後も保険期間中であれば、原則として、被保険者の同意を得て途中で変更することが可能です。

2.税務上の取扱い

 ご契約の形態によって税務上の取扱いは異なります。
 ここでは、契約者=保険料負担者=被保険者=被相続人の契約において、死亡保険金受取人が誰かによって、相続税の計算上の取扱いが異なる点をご紹介します。

(1)死亡保険金受取人が戸籍上の配偶者や子など法定相続人の場合

 受け取った死亡保険金は、相続税の計算上、みなし相続財産として課税の対象となります。また、生命保険金の非課税制度(「500万円×法定相続人の数」を上限に相続税を非課税とする制度)を適用することができますので、上手く設計することでみなし相続財産として課税される金額を低く抑えることが可能です。

(2)死亡保険金受取人が(1)以外の者である場合

 受け取った死亡保険金は、相続税の計算上、みなし相続財産として課税の対象となります。ただし、生命保険金の非課税制度は適用することができず、全額が課税の対象となりますのでご注意ください。

 保険期間中、指定した受取人が死亡した場合や、氏名が変わった場合は、各社所定の変更手続きが必要ですが、契約者や被保険者の変更と比べ手続き漏れが多いようです。定期的に受取人が誰になっているか確認することはもちろん、環境の変化によって受取人を変更した方がよいこともあり得ます。状況に応じて、保障の見直しとともに適切な受取人を検討しましょう。

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 昔から、からだに良い野菜として重宝されているトマト、
 生活習慣病などに効果があるとして紹介されたこともあり、
 通常品に比べ何倍もする高級なものも店頭に並ぶようになり、
 トマトブームが過熱することにもなりました。

 その効果の中心として働いているのが「リコピン」という成分、
 活性酸素を除去して、がんや老化を防いでくれるというのです。
 食料品メーカー大手のカゴメでは、トマト等の自家栽培に取組み、
 高リコピンや中型サイズなど機能性の高いトマトの販売に力を入れています。

 もともと同社は、創業者 蟹江一太郎氏が西洋野菜に目を付け、
 玉ねぎ、キャベツ、レタス、パセリなどの栽培に着手し、
 儲けられる作物として、副業として取り組んだことに始まります。

 ところが、トマトは匂いや味が、日本人の舌にまったく合わず、
 作っても売れずに捨ててしまう日が続きました。
 たまたま紹介された、輸入品のトマトピューレがきっかけで、
 トマトを加工すれば商品化できることに気づき、
 輸入食品店経由での販売を始めることになります。

 そして、トマトの加工は順調に進み、
 ウースターソースやトマトケチャップへ手を広げていきます。
 蟹江氏は、トマト加工の比重が高くなってきても、
 農閑期を補う副業としての位置づけをなかなか変えませんでした。

 農家の副業から、近代的な工場への変換したのは、
 トマトの栽培に着手して23年後の事だったのです。
 蟹江氏の経営は、ひとことで言えば「危なげない経営」といえるでしょう。

 事業が拡大していっても、むやみに設備投資せず、
 地元の農家と共同栽培し原料を確保する一方、
 万が一のリスクに備えたのです。

 トマトの加工は、農業の遊休時間を生かしてする、
 副業的なものとして、利益の拡大より、
 農業経営の安定に重点を置きました。

 その後、生産過剰による価格の暴落の経験から、
 同業者が集まって共同経営の形態を採るのですが、
 それは無用の競争を避けるためでした。

 一過性の流行に流されることなく事業を続けて行くには、
 事業の拡大への取り組みは避けて通ることはできません。
 しかし、新しい事は失敗の確率が高いものです、たとえ事業が失敗しても、
 大やけどをしないための体制が必要になります。

 新規事業をする場合、拡大の目安となるのが、
 繁閑の差のバランスが取れる規模になっているかということです。
 そのためには、閑散期に埋め合わせする副業を作っておくことが大切で、
 ピーク期との受注の差が少なくなるほど安定経営が可能になります。

死後離縁

今回は相談事例を通じて、死後離縁について、ご紹介します。

Q
今月のご相談

 私の父(養父)が先日亡くなりました。私は母の再婚に伴う代諾養子縁組により、父の養子となりましたが、昔からずっと父方の親族から暴言や皮肉を言われてきました。以前までは父が守ってくれていましたが、父が亡くなった今、嫌がらせや暴言がエスカレートし、私は精神的に参ってしまいました。私は父方の親族と親族関係を終了させたいと思っていますが、何か良い方法はありませんでしょうか。

 また、母は父の遺産はすべて私に相続してほしいと言っておりますが、上記問題解決のため何かしらの対応をしたとしても、相続関係に影響はありませんでしょうか。法的にどのような扱いになるのかご教示いただけますと幸いです。

A-1
ワンポイントアドバイス

 「死後離縁」という手続きを行うことにより、お父様との離縁が成立すれば父方との親族関係を終了させることができます(民法729条)。ただし、死後離縁が認められるためには家庭裁判所の許可が必要となります(民法811条6項)。遺産を相続しながら扶養義務や祭祀を免れるためといった、明らかに不純な理由の場合、許可審判はされないので注意が必要です。

 なお、死後離縁をした場合でも、すでに生じた相続における相続人の地位に影響はなく、遺産を相続することができます。

A-2
詳細解説
1.「死後離縁」の手続きについて

  1. ① 養子であるご本人が、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
  2. (※)養子が15歳未満の場合は、法定代理人が申立てを行うことになります。
  3. ② 家庭裁判所による許可審判の確定後、「審判書謄本」と「確定証明書」を持参し、市区町村役場に養子離縁の届出を行います。
  4. (※)「確定証明書」は、審判をした家庭裁判所に申請書を提出することで交付を受けられます。
  5. (※)家庭裁判所の審判に不服があれば、審判結果の連絡を受けてから2週間以内であれば不服申立てをすることが可能です。
2.離縁後の養子の氏について

 原則、縁組前の氏に戻ることになりますが、離縁の日から3ヶ月以内に市区町村役場に届け出ることにより、引き続き縁組中の氏を称することができます。

 ただし、「縁組の日から7年を経過して以降の離縁の場合」という要件があるので、養子縁組の日から7年経過前の離縁の場合は、復氏することが原則となるので注意が必要です。

  1. (※)7年経過前の離縁の場合でも、家庭裁判所による「氏の変更」に関する許可審判がされれば、縁組中の氏に変更することは可能です。判断基準としては、「やむを得ない事由(氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合)」があるかどうかが基準となります。

 「死後離縁」は家庭裁判所や役所への届出、証明書類の取得など煩雑で時間のかかる手続きが多くあります。そのため、専門家に相談の上、進めていただくことをお勧めします。

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相続財産の寄附と税金 気をつけたいポイントは?

故人の遺志を尊重して相続財産を寄附する場合に、気をつけたいポイントを教えてください。

Q
今月のご相談

 妻が他界しました。私たち夫婦には子供がおらず、相続人は私と甥姪たち(夫の兄、姉の子)です。遺言書はありませんが、生前に自分が亡くなった際は、財産の一部を社会に役立つ団体等に寄附したいと申しておりました。
 妻の財産を寄附したい場合には、手続きや税金などについてどのような取扱いになるのでしょうか?

A-1
ワンポイントアドバイス

 正式な遺言書がないと、奥様の遺志をそのまま実現することはできません。ご相談者様が奥様の遺志を尊重するには、ご相談者様が相続をした上で、寄附の手続きをとることになります。この場合の相続時の寄附について、方法や税金の取扱いなど、気をつけたいポイントを以下にご紹介します。

A-2
詳細解説
1.遺言がない場合の寄附について

 ご本人が亡くなったあとに財産を寄附したいと考えていた場合でも、正式な遺言書がないと、その遺志を実現することはできません。

 「どこに、何を、どれくらい寄附するか」という内容を、遺言書という形で残しておくことが必要です。

 今回のご相談では、奥様が遺言書を残していなかったとのことですので、奥様の遺志で寄附することはできません。

 このような場合は、まず相続の手続きを行い、財産を相続したあとで、相続人の判断で寄附をすることになります。

 たとえご本人が生前に「寄附したい」と周囲に話していたとしても、相続人にその意思がなければ、寄附は行われません。

2.相続税がかからない場合も

 相続した財産を寄附すると、条件を満たせばその寄附分について相続税がかからない(非課税となる)ことがあります。

非課税になるための主な条件:

  1. 寄附した財産が、相続や遺贈で受け取ったそのままの財産であること
    ※現金に換えてから寄附した場合は対象外ですのでご注意ください
  2. 相続税の申告期限(相続日から10ヶ月後の応答日)までに寄附すること
  3. 寄附先が、国や地方公共団体、または教育・科学などの分野で社会に大きく貢献していると認められた特定の公益法人等であること

非課税対象となる寄附先の例:

  • 日本赤十字社
  • 財団法人日本ユニセフ協会
  • 国境なき医師団
  • 公益法人がん研究会
  • 国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン
  • 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

その他にも、学校法人や公益団体などが非課税の対象になることがあります。寄附を考えている団体が対象かどうか、事前に確認することをおすすめします。

3.所得税や住民税も確認を

 相続人が財産を受け取ったあとに寄附する場合は、「寄附金控除」という制度が使えるかもしれません。これは、寄附した金額の一部が所得税や住民税の計算で控除される制度です。

 寄附の内容等によって、受けられる所得控除や税額控除が変わります。また、対象となる範囲も異なりますので、どういった寄附であったら、どういった控除が受けられるかの詳細は、寄附先として検討している団体のホームページなどでご確認ください。

 なお、寄附をした財産が不動産や株式の場合には、寄附=譲渡として譲渡所得となり、税金がかかることがあります。ただし、この場合に一定の条件を満たして期限内に手続きをすれば、税金がかからない特例もあります。

 ご自身が亡くなったあとに確実に財産を寄附するには、遺言書が必要です。また、寄附名目であれば、財産の種類や寄附先に関係なく相続税等が非課税となる訳ではありません。特に相続人が寄附をする場合には、限られた期間の中で、相手方や財産の選定をした上で実行しなければなりません。慎重かつ迅速に行いましょう。

 相続と寄附と税金の関係について詳しくお知りになりたい方は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

<参考>
国税庁HP「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」など

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 80年から90年代に大流行したタミヤの自動車模型「ミニ四駆」。
 当時、漫画やアニメにも登場し、夢中になっていた子供も今や父親となり、
 自分の子供と遊ぶ世代となり、人気が再燃しているそうです。

 ものすごい速さでコース上を駆け抜けるミニ四駆のレースに加えて、
 新しいブームが起きています。
 イベントでは、メーンのコース会場とは別の場所で、
 車体をビーズなどで飾りつけ、見た目の美しさや改造度を競う、
 「デコ四駆」のコンクールも行われ人気となっています。

 日本のプラモデル・模型メーカーの代表格のタミヤ(田宮模型)、
 お父様方の頭に思い浮かぶのは、幼い時に作ったプラモデル。
 海外から押し寄せたプラモデルの波に押され、
 木製模型からプラモデルに転向することになりますが、
 世界でも屈指の模型メーカーとして発展することになります。

 初めて手がけるプラモデルの製作に四苦八苦している時に、
 経営を安定することができたのは、モーターで自走する模型のヒットでした。
 金型の作り易さと、設計の容易さから、戦車を題材に選びます。
 運の良いことに、有名イラストレーターに箱絵を描いてもらうことにも成功します。

 もう失敗はできないという思い一杯で、製作に取り掛かったものの、
 相変わらずの金型の納期遅れで、発売時期は1ヶ月、2ヶ月と遅れていきました。
 正月の商戦にはどうにか間に合わすことができ、年末ギリギリに問屋へ納品に回ります。
 年が明けると、仕事始の日に追加の注文で電話が鳴り響き、会社が沸き立ちます。

 子供たちの夢を叶える仕事をしているものにとって、
 実物に忠実な模型を作り上げることは、何物にも代えがたい喜びがあります。
 その思いに押されるまま、スポーツカーの代名詞であるポルシェの模型を、
 手がけたときのことです。

 製作の許可を得て、製造工程まで取材することができました。
 本物の車が、組み上げられていく姿を目の当たりにしていると、
 この行程をそのまま模型にしたい気持ちが、モクモクと湧き上がってきます。
 寸法などを忠実に再現するため、本物のポルシェを手に入れ、
 あらぬことかバラバラに解体してしまったのです。

 発売してみると、模型の人気はマニアだけに止まり、
 売れ行きは思ったほどではありませんでした。
 振り返ってみると、制作費がかかりすぎ小売価格が高くなりすぎたこと、
 世に出すタイミングが早すぎたことが原因でした。

 その後、ポルシェの模型はラジコンカーとして復活することになります。
 ラジコン好きの社員が、駐車場で自作のラジコンカーを走らせている姿を見て、
 エンジン音がしないので尋ねてみると、モーターで走らせていると応えるではないですか。
 エンジンが主流であったラジコンの世界に、電動カーが登場することになるのです。

 先立つこと2年前に、戦車型のラジコンカーを発売し、市場の反応を見つつ、
 ポルシェのラジコンカーを発売します。
 本体、送信機、受信機を揃えると3万円近くするのにも拘らず、大ヒットとなります。
 そして、電動カーは、オフロードカー、ミニ四駆へとつながっていくことになるのです。

 多くの場合、思い入れが強いとビジネスは上手くいかないものです。
 上手くいかなくて起死回生を狙い、新しいビジネスに手を出すものなら最悪です。
 大きな成果を願うなら、念入りに調査をし、テスト販売をするなど、
 確信を得てから、本格的に手をつけないといけません。
 はやる気持ちを抑えて、手順を踏むことで、成功の確率は格段に高まるのです。

2025年7月23日

夏季休業日のご案内

弊事務所では、下記期間を休業とさせて頂きますのでご案内いたします。

休業期間中は何かとご不便をお掛けすることと存じますが、
何卒よろしくお願い申し上げます。

■夏季休業日 8月13日(水)~8月17日(日)

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