お知らせ

 今回は相談事例を通じて、一切の財産に含まれるものについてご紹介します。

 父が亡くなりました。相続人は長男の私と母の2人です。遺言書の中に「長男〇〇に一切の財産を相続させる」という文言がありました。この「一切の財産」の中には債務も含まれるのでしょうか。遺言書には、債務に関しては何も書かれていません。

 ご質問への回答として最高裁判決がありますので、以下にご紹介します。

 「相続人のうちの1人に対して、相続財産の全部を相続させる旨の遺言がなされた場合、特段の事情のない限り、当該相続人に債務も全て相続させる意思が表示されたものと解すべきである。」(最高裁平成21年3月24日判決)

 ご質問には、「一切の財産」と表示されており、一方上記判決では「相続財産の全部」との表示ですが、これは同じ意味と理解してよいでしょう。

 上記最高裁判決の根拠は、民法第899条です。同条には、「各共同相続人は、その相続分に応じて、被相続人の権利義務を承継する。」と規定されています。従って、相続人はプラスの財産ばかりではなく、相続分に応じて「義務」すなわち被相続人の債務も相続することになります。

 上記第899条の「相続分」ですが、通常は「法定相続分」(民法第900条)によりますが、遺言では、法定相続分と異なる相続分を指定することができ(民法第902条第1項)、その場合は、その指定された相続分での相続となります。ご質問の場合、指定された相続分は上記最高裁判決と同様に「全部=100%」ですから、相続人は、被相続人の債務も全部=100%相続することになります。

 なお、上記はあくまで相続人間での債務の承継の話です。債権者としては何も関知しえないところで債務の承継が決まることはありませんので、債権者は遺言に従わずに、法定相続分に応じて請求することは可能です(その場合、遺言で相続しない妻は、債権者への弁済分を、子に求償することになります)。

 

 

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 2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが、相続税の計算における未成年者控除はどうなりますか?

 相続人が未成年者の場合、「未成年者控除」として満20歳に達するまでの年数に応じた一定の金額を相続税額から控除してもらえると聞いています。2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが、この「未成年者控除」はどうなるのでしょうか?

 成年年齢の引き下げにあわせて、「未成年者控除」が適用できる年齢や控除額の計算が改正されました。

1.未成年者控除とは

 相続人が未成年者である場合には、相続税の額から一定の金額を控除します。この控除を「未成年者控除」といいます。

 未成年者控除を適用できるのは、次のすべての要件を満たす人です。

  • (1)相続又は遺贈により財産を取得した法定相続人(日本国籍を有していない人など、一定の人は対象外です。)であること
  • (2)上記(1)の法定相続人とは、相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人であること
  • (3)上記(1)の法定相続人は、その相続又は遺贈により財産を取得したときに未成年者であること

 上記(3)の「未成年者」の年齢が2022年3月までは「20歳未満」でした。これが、民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い、未成年者控除における「未成年者」の年齢も2022年4月から「18歳未満」に引き下げられました。

2.未成年者控除額

 未成年者控除額は、以下の算式により計算します。

【控除額】
10万円×成年に達するまでの年数(1年未満切上)

 「成年」とは、2022年3月までは「満20歳」でした。

 これが、2022年4月からは民法の成年年齢にあわせて「満18歳」に改正されました。

 つまり、2022年4月からの控除額の計算は、以下の通りとなります。

【控除額】
10万円×満18歳に達するまでの年数(1年未満切上)
3.適用開始時期

 この改正は、2022年4月1日以後の相続又は遺贈から適用されます。

4.留意点

 未成年者控除については、未成年者本人の相続税額より控除額が大きくなるために引ききれない場合があります。この場合には、その引ききれない部分をその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引きます。

 今回の改正により、単純計算で控除額が最大20万円(2年×10万円)減少することとなりますので、このような引き切れない部分を差し引ける金額も当然少なくなることが予想されます。

 孫養子などで未成年者を相続人とした場合に有効活用してきたこの未成年者控除について、今般の改正点を改めてご確認ください。

 なお、既に未成年者控除の適用を受けたことがある場合には、一定の控除限度額の計算があります。その点もご留意ください。

 過去に税額計算をシミュレーションされた方は見直されると良いでしょう。
 相続に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

<参考>
 国税庁HP「No.4164 未成年者の税額控除」など

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