お知らせ

 今回は相談事例を通じて、自筆証書遺言の有効性について、ご紹介します。

 父が自筆の遺言を遺して亡くなりました。内容は、自宅の土地は私にくれるというものでした。きちんとした人でしたので、本などを参考にして書いたのでしょう、すべて手書きで書かれていましたし、日付、署名、押印もありました。
 遺言を見つけたあとはすぐに家庭裁判所へ行き検認も済ませたので、この遺言を使って土地の名義を変えたいのですが可能でしょうか。

 遺言の内容(抜粋):「●●町の土地は長男のAに任せる。」

 遺言で財産を特定の人に渡すには、「渡すこと」を明確に記載しなければなりません。

 この遺言の場合、「任せる」と書かれていますが、「任せる」の意味は、「①するがままにしておく。放置する。②相手のするままになる。さからわず、なされるがままでいる。ゆだねる。③他の人に代行してもらう。委任する。④下襲の裾などを後ろに流れ引くままにする。⑤従う」です(広辞苑より)。任せるという言葉には渡すという意味が含まれておりませんので、この遺言の文面から、お父様が土地を渡したいという意思を読み取ることが可能かどうか、ということになります。

 判例では、「遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきもの」(昭和58年3月18日最高裁判決)とあるので、抜粋した条項のみでは可否について判断できません。

 なお、この遺言では登記ができないという場合は、ご自宅の土地について、通常の相続手続きを行う必要があります。そのため、全相続人で誰が取得するのかを話し合っていただき、遺産分割協議書を使って名義を変更することとなります。

 このような疑義がないように、物件や承継方法等を明らかにして記載するのが良いでしょう。特に自筆証書遺言は、形式的な要件はクリアしているにも関わらず、内容に有効性がないばかりに使えない、ということが起こりうるため、遺言の作成を検討する際には、専門家に相談する、公正証書遺言での作成を検討するなど、もう一歩踏み込んで考えていただくことをおすすめします。

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
 本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。

 「弔慰金」名目であっても、退職金として認められる部分や一定額を超える部分は、退職手当金等として相続税の対象となります。

 私の妻が、実家への帰省中の事故で亡くなりました。生前妻が勤務していた会社から死亡退職金(1,500万円)と弔慰金(150万円)を受け取りましたが、この弔慰金に相続税はかかるのでしょうか?

 被相続人の雇用主などから弔慰金などの名目で受け取った金銭などのうち、実質、退職手当金と認められる部分や一定額を超える部分は、退職手当金等として相続税の課税対象となります。

 弔慰金とは、被相続人の雇用主などが、亡くなった従業員を弔い、遺族に対して慰めの気持ちを込めて渡すお金で、退職金とは別に支払われるものをいいます。

 このように弔慰金は、その支払いの目的や性質から、通常は税金がかからないこととされています。しかし、名目は弔慰金であっても、実際には死亡退職金と同様と認められる場合や、実務上一定額を超える部分については、退職手当金等として相続税の課税対象となります。

 

1.「一定額」とはいくら?

 相続税の課税対象となる“一定額を超える部分”の「一定額」とは、法令上で明確な金額が定められているわけではありませんが、相続税の課税上の解釈についてまとめられている相続税法基本通達で、原則として雇用主等から受ける弔慰金や花輪代、葬祭料等(以下、弔慰金等)の合計額が以下の金額を超える部分について、退職手当金等として相続税の課税対象として取扱う旨が記載されています。

 そのため、実務上はこれに倣い、以下の金額を「一定額」として取扱っているのが現状です。

  1. ① 被相続人(奥様)の死亡が業務上の死亡であるとき
    →被相続人の死亡当時の普通給与(※)の3年分に相当する額
  2. ② 被相続人(奥様)の死亡が業務上の死亡でないとき
    →被相続人の死亡当時の普通給与(※)の半年分に相当する額

    (※)普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。

 ご相談の場合には、奥様の死亡原因が実家への帰省中の事故、ということですので、業務上の死亡でないと判断しますと、上記の②に該当します。
 そのため、たとえば奥様の普通給与が月30万円だったとしますと、

30万円×6ヶ月=180万円

が「一定額」となりますので、弔慰金として受け取った150万円については、その全額を課税対象とする必要はないと考えられます。

 

2.業務上か否かの判断

 上記1.の通り、業務上の死亡か否かで「一定額」の計算が異なります。この場合の、“業務上の死亡”について、業務中に亡くなった方の全てが“業務上の死亡”になるわけではありません。

 この“業務上の死亡”についても、相続税法基本通達で解釈が示されており、これによれば、直接業務に起因する死亡又は業務と相当因果関係があると認められる死亡をいう、としています。

 そのため実務上、業務上の死亡か否かの判断において、業務中の事故などの場合にはその因果関係が比較的明らかですが、突然死などの場合には、その原因と業務との因果関係を明らかにする必要がある点にご留意ください。

 なお、一定の法律等に基づく弔慰金等を遺族が受け取る場合は、退職手当金等に該当しないものと実務上は取扱われているほか、上記の「一定額」の計算にも影響を及ぼす細かな解釈も別途存在しています。実際に弔慰金を受け取る場合は、税の取扱いについて当事務所へご相談ください。

<参考>
 相法3、相基通3-18、3-19、3-20、3-22、3-23、国税庁HP「№4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い」

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
 本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。
ページトップに戻る