お知らせ

 今回は相談事例を通じて、相続人の廃除について、ご紹介します。

 私の長男は幼少期から素行が悪く、自宅内の金品を盗んでは勝手に売ったりし、今でも私達夫婦だけでなく、長女夫婦の所にまでお金を無心しにやって来ます。最初は抵抗しましたが、暴力を振るうので従わざるを得ません。彼の対応に家族は皆疲弊しておりますが、全く悪びれずに繰り返すどうしようもない長男です。私に万が一の事があった時に、長男に私の財産を渡すことは絶対に避けたいのですが、何か方法はありますでしょうか。

 推定相続人の廃除の手続を行うことにより、あなたの財産を相続させないことができます(民法第892条)。

 推定相続人の廃除とは、遺留分(最低限相続することができる財産、民法第1028条)を有する相続人について、その廃除を家庭裁判所に請求し、認められることにより、その相続人が相続人から除外される制度です。推定相続人の廃除は遺言でも行うことができ、その場合は遺言執行者が家庭裁判所へ請求をすることになります。

 推定相続人の廃除は、その相続人の権利を奪う強力な制度であるため、民法は廃除理由を

 ①被相続人に対して虐待をしたとき
 ②被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき
 ③推定相続人にその他の著しい非行があったとき

に限定しています。

 これらの程度について、判例は、「遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待及び侮辱並びにその他の著しい非行を行ったことが明らかであり、かつ、それらが、相続的共同関係を破壊する程度に重大であった場合」であるとし、その評価についても「被相続人の主観的、恣意的なもののみであってはならず、相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が客観的に重大なものであるかどうか」を必要としており、被相続人の個人的な感情のみで廃除することはできないものとしています。さらに、その評価は「相続人がそのような行動をとった背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考量したうえでなされなければならない」とし、その行動が相続人の一方的な非によるものであるのかどうかも判断基準としています。(東京高裁平成8年9月2日決定)。

 今回の場合、ご長男の金品を盗み無断で売却する行為は著しい非行であると考えることができ、またお金を請求し拒めば暴力を振るうという行為は虐待と考えることができますが、それ以外にも、行為の継続性や背景事情を踏まえ、廃除の決定がなされるかどうかが決まります。一度弁護士等の専門家に詳細を伝えご相談されることをおすすめします。

 廃除の際の留意点として、相続権が剥奪されるのは今回で言うと長男のみですので、長男に相続人がいれば、その相続人が代襲相続人になります。その他、長男が廃除された後、相談者ご自身がいつでもその取消を家庭裁判所に請求することができます。

 なお、推定相続人の廃除は、その本人と廃除される相続人との間にのみ効力が生じるものであるため、その他の親族関係、相続関係には影響しません。廃除の請求が認められたとしても、奥様の相続に関しても廃除がなされる訳ではありませんのでご注意下さい。

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