トラブルにならないための~法律の相続対策 共同遺言
今回は相談事例を通じて、共同遺言についてご紹介します。
私たち夫婦には子がありません。どちらが先に亡くなってもお互いに全財産を渡したいと思っています。二人でこの旨の遺言を一通の紙に遺しておけば、できるでしょうか。
ご夫婦がそれぞれお互いに全財産を渡す遺言を作成すれば、可能です。ただし、それぞれが別の紙に書く必要があります。なお、配偶者が先に死亡しているときは誰に財産を渡したいか、ということも考えておくと良いでしょう。 1.共同遺言の禁止
二人以上の者が同一の証書によって遺言することを共同遺言といいますが、これは禁じられており(民法第975条)無効となります。遺言は自由に撤回することができます(民法第1022条)が、共同遺言を可能とすると、自由な撤回が難しくなるため、遺言の自由の原則に反する恐れがでるなどの理由から共同遺言は禁止されています。また、一方の遺言が失効した場合、他の共同遺言者の遺言の効力をどうとらえるかの問題も想定されます。
そのため、ご夫婦がお互いに財産を渡す内容であっても、一人一つずつ遺言書を作成する必要があります。
2.補充遺言
遺言者の死亡以前に受遺者(財産をもらう人)が死亡したときは、その効力を生じません(民法第994条)。したがって、「配偶者に相続させる」旨しか遺言せず、遺言者の相続開始時に配偶者がすでに死亡している場合には遺言は効力を生じないため、遺言者の法定相続人が遺産分割をして財産を取得することになります。そこで、「配偶者が先に死亡している時には誰に遺産を渡したいか」ということも、遺言しておくことが大切になります。これを「補充遺言」といいます(「予備的遺言」と呼ばれることもあります)。
特によく面倒を見てくれた兄弟や甥姪などに財産を渡したい場合は、その旨を遺言しておくことで遺産分割協議を行うことなく、スムーズに遺産の受け渡しを行うことができます。
補充をすることなく相続を迎えた場合でも、配偶者死亡時に遺言の書き換えができれば良いですが、年齢を重ねるごとに遺言を書くことが難しくなる傾向にあるため、ご夫婦ともに補充遺言も書いておくと良いです。
このほかにも、有効な遺言書を作成するためには遺留分について考慮しているかなど、注意する点はいくつかあります。相続が起こってから思わぬ争いを生まないためにも、専門家に相談をして作成されることをお勧めします。
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お金に困らないための~税金の相続対策 死後認知後の相続税の取扱い
相続税を納めた後に死後認知があり、遺産の一部が認知された子へ渡った場合、他の相続人が既に納付した相続税はどうなるのでしょうか。
3年前に父が亡くなりました。母は既に亡くなっており、兄弟3人で父の遺産を相続し、期限までに相続税の申告書を提出するとともに、相続税を納めました。
ところが、その後、父の子供であるという男性が名乗り出てきて、裁判の結果父の子として認知されました。さらに、その男性へは、遺産相続相当額として兄弟3人から9,000万円(1人3,000万円ずつ)を支払うこととなりました。
この場合、既に申告し、納付した相続税はどのようになるのでしょうか?
被認知者(男性)に対して支払うべき金額が確定した段階で相続税額の再計算をし、納め過ぎた相続税があれば、還付を受けるために「更正の請求」の手続きをとるとよいでしょう。
当初の申告時は、ご兄弟3人が相続人として、基礎控除額は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)で相続税額を計算し、納付されたと思います。
しかし、死後認知により相続人が4人であると認定され、基礎控除額は5,400万円(3,000万円+600万円×4人)となります。これにより、課税価格の合計額が600万円少なくなります。したがって、納付すべき相続税額の合計額は、減少することになるでしょう。
また、ご兄弟それぞれが、死後認知された男性(以下、被認知者)に対し、遺産相続相当額として3,000万円を支払うべき義務を負ったということですから、各自の課税価格もそれぞれ3,000万円ずつ少なくなります。またそれにより、各自が納付すべき相続税額も減少します。
法定申告期限後に税金を再計算した結果、納め過ぎていることが分かったときに、その納め過ぎた税金を戻してもらう(還付)手続きがあります。これを「更正の請求」といいます。
更正の請求は、原則、法定申告期限から5年以内であれば行うことができます。ただし、相続税の場合には、ご相談のケースのように裁判により事実が確定するような場合には、たとえ5年を経過していたとしても、その事実を知った日の翌日から4か月以内であれば、更正の請求を行うことができます。
なお、本来なら、死後認知が確定してから4か月以内に基礎控除額が増えたことによる更正の請求をし、遺産総額相当額として支払うべき金額が確定してから4か月で、もう1度更正の請求を行うことになりますが、手続きが非常に煩雑になるため、このような場合には、被認知者に対して支払うべき金額が確定した段階で相続税額の再計算をし、更正の請求を行うことが認められています。
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