故人の遺志を尊重して相続財産を寄附する場合に、気をつけたいポイントを教えてください。
妻が他界しました。私たち夫婦には子供がおらず、相続人は私と甥姪たち(夫の兄、姉の子)です。遺言書はありませんが、生前に自分が亡くなった際は、財産の一部を社会に役立つ団体等に寄附したいと申しておりました。
妻の財産を寄附したい場合には、手続きや税金などについてどのような取扱いになるのでしょうか?
正式な遺言書がないと、奥様の遺志をそのまま実現することはできません。ご相談者様が奥様の遺志を尊重するには、ご相談者様が相続をした上で、寄附の手続きをとることになります。この場合の相続時の寄附について、方法や税金の取扱いなど、気をつけたいポイントを以下にご紹介します。
ご本人が亡くなったあとに財産を寄附したいと考えていた場合でも、正式な遺言書がないと、その遺志を実現することはできません。
「どこに、何を、どれくらい寄附するか」という内容を、遺言書という形で残しておくことが必要です。
今回のご相談では、奥様が遺言書を残していなかったとのことですので、奥様の遺志で寄附することはできません。
このような場合は、まず相続の手続きを行い、財産を相続したあとで、相続人の判断で寄附をすることになります。
たとえご本人が生前に「寄附したい」と周囲に話していたとしても、相続人にその意思がなければ、寄附は行われません。
相続した財産を寄附すると、条件を満たせばその寄附分について相続税がかからない(非課税となる)ことがあります。
非課税になるための主な条件:
- 寄附した財産が、相続や遺贈で受け取ったそのままの財産であること
※現金に換えてから寄附した場合は対象外ですのでご注意ください - 相続税の申告期限(相続日から10ヶ月後の応答日)までに寄附すること
- 寄附先が、国や地方公共団体、または教育・科学などの分野で社会に大きく貢献していると認められた特定の公益法人等であること
非課税対象となる寄附先の例:
- 日本赤十字社
- 財団法人日本ユニセフ協会
- 国境なき医師団
- 公益法人がん研究会
- 国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン
- 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
その他にも、学校法人や公益団体などが非課税の対象になることがあります。寄附を考えている団体が対象かどうか、事前に確認することをおすすめします。
相続人が財産を受け取ったあとに寄附する場合は、「寄附金控除」という制度が使えるかもしれません。これは、寄附した金額の一部が所得税や住民税の計算で控除される制度です。
寄附の内容等によって、受けられる所得控除や税額控除が変わります。また、対象となる範囲も異なりますので、どういった寄附であったら、どういった控除が受けられるかの詳細は、寄附先として検討している団体のホームページなどでご確認ください。
なお、寄附をした財産が不動産や株式の場合には、寄附=譲渡として譲渡所得となり、税金がかかることがあります。ただし、この場合に一定の条件を満たして期限内に手続きをすれば、税金がかからない特例もあります。
ご自身が亡くなったあとに確実に財産を寄附するには、遺言書が必要です。また、寄附名目であれば、財産の種類や寄附先に関係なく相続税等が非課税となる訳ではありません。特に相続人が寄附をする場合には、限られた期間の中で、相手方や財産の選定をした上で実行しなければなりません。慎重かつ迅速に行いましょう。
相続と寄附と税金の関係について詳しくお知りになりたい方は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。
<参考>
国税庁HP「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」など
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