お知らせ

 今回は相談事例を通じて、成年後見と任意後見の概要についてご紹介します。

 70歳になる父は、将来は施設に入るつもりで、その費用は預貯金と自宅(名義は父)の売却資金でまかなうといっています。
 もし父が自宅を売却する前に認知症になった場合、家族である私が代わりに売却することはできますか。できない場合、私が父の不動産を売却できる方法はありますか。

 自宅の名義がお父様名義になっているため、ご相談者様(以下、あなた)が代わりに売却することはできません。不動産の売買契約を締結するためには、判断能力が必要となりますが、お父様が認知症になってしまい売買契約を締結できるだけの判断能力がない場合には、売買契約自体を結ぶことができません。

 認知症になってしまい判断能力がなくなった後に不動産を売買したい場合には、成年後見制度を利用することになります。お父様の代わりに財産管理をする人(「成年後見人」と呼びます。)を家庭裁判所に選任してもらい、成年後見人がお父様の代わりに売買契約を締結することになります。なお、自宅を売却するときは、事前に家庭裁判所の許可を得る必要があるため、必ずしも売却できるとは限りません。

 一方、将来、認知症になってしまったときに備えとして、判断能力がある元気なうちに自分が信頼できる人に自分の生活や財産管理について代理権を与える、任意後見契約があります。

 成年後見制度は、認知症になってしまった後なので、自分の代わりに財産管理をしてくれる人を自由に選ぶことはできません。任意後見契約は、自分の信頼できる人を代理人に選ぶことができます。任意後見契約は、委任する内容も決めることができるため、お父様とあなたが任意後見契約を結び、不動産の売却と施設への入所手続きを委任の内容とすることで、お父様が認知症になった後でもあなたがお父様の自宅を売却することができ、施設の入所手続きも行うことができます。

 ただし、任意後見契約書は公正証書で作成する必要があるため、ご注意ください。

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2019年8月6日

夏季休業日のご案内

弊事務所では、下記期間を休業とさせて頂きますのでご案内いたします。

休業期間中は何かとご迷惑をお掛けすることと存じますが、
何卒よろしくお願い申し上げます。
 
■夏季休業日
 8月12日(振替休日)~8月16日(金)

 電話加入権がある固定電話を利用している場合は、相続財産として含める必要があります。

 先日、祖母が他界しました。遺産整理及び解約手続き等を行っているのですが、NTTの固定電話は、電話加入権という権利があるため、相続財産に含めなければならないという話を聞きました。相続税を計算するにあたり、評価額はいくらになるのでしょうか。教えてください。

 電話加入権を持っている場合、相続財産として計上します。この場合の評価額は、原則として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価します。令和元年分の相続であれば、全国一律、一回線あたり「1,500円」が標準価額です。

1.電話加入権

 電話加入権とは、NTT東日本又はNTT西日本(以下、NTT)に加入電話の契約を行い、NTTに施設負担金を支払うことによって取得する権利です。この契約(申込み)を行うことで、NTTの電話回線を使用することができます。

2.相続財産となる「電話加入権」

 以前であれば、固定電話のある家庭は、必ず電話加入権を保有していたと考えられていました。しかし近年、インターネット回線を利用したIP電話、NTT以外の通信事業者が提供する回線などは、電話加入権がなくても電話番号が取得でき、電話回線を使用できます。

 また、固定電話でも料金プランによっては、電話加入権不要で契約できるプランもあります。

 それらのうち、相続財産として評価するのは、NTTと契約をし、電話加入権を保有している場合のみです。

3.「電話加入権」の相続税評価額

 相続税を計算するにあたり、相続財産となる電話加入権の相続税評価額は、取引相場のある場合や特殊な番号等一部を除き、原則として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価します。

 ちなみにこの標準価額は、平成26年以降の相続に関しては、全国一律で一回線あたり1,500円となっています。

 なお、この標準価額は、毎年国税庁のサイト(http://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm)で都道府県ごとに公表しています。標準価額はこちらで確認なさるとよいでしょう。ただし、国税庁のサイトで確認できるのは、最新年分+過去6年分の7年分です。ご注意ください。

<参考>
 財産評価基本通達161

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 実家を相続して売却したときに、その家の固定資産税・都市計画税は誰が負担するのでしょうか。

 今年2月に母が亡くなり、母親名義の実家を相続しました。その後、実家の固定資産税・都市計画税(以下、固都税)の納付書が実家に届きました。この税金は私が納めるものなのでしょうか。
 また、実家は近々売却する予定で不動産屋と話が進んでいます。このように売却をする場合でも、固都税は全期分納付しなければいけませんか?

 たとえ年内に相続により取得したご実家を売却したとしても、ご相談者は、お母様の納税義務を引き継ぎ、固都税を全額納付しなければなりません。ただし不動産取引には、不動産の引渡時に固都税を日割清算する慣行があります。

1.固都税の納税義務者

 固都税の納税義務者は、1月1日現在の登記簿に、「所有者」として登記されている方になります。

 今回のご相談では、お母様は2月にお亡くなりになったということですから、ご実家の1月1日現在の所有者はお母様名義で登記されていたため、固都税の納税通知書がご実家に届いたと思われます。ご相談者は相続によりご実家を取得されたとのことですので、当然に固都税の納税義務も引き継がれます。そのため、ご相談者は、ご実家の固都税を納めなければなりません。

 また、ご実家は近々売却される予定だということですが、固都税の納税義務者は先述の通りのため、たとえ年の途中で所有者が変わったとしても、納税義務者に変更はありません。

 なお、買手が年内に不動産の引き渡しを受けた場合には、翌年の1月1日時点での所有者である買手が納税義務者とされますので、翌年度以降の固都税の納税通知書は、1月1日現在の所有者である買手に送られることになります。

2.不動産取引の慣行

 このように、不動産取引日以降の固都税についても、原則、売り手(1月1日現在の所有者)側が納めることになりますが、実際の不動産取引では、当該固都税を不動産の引渡時に日割清算(「精算」ともいいます。)で対応することが一般的です。
 具体的には、引渡日以降の固都税相当額を日割で計算し、不動産の引渡時に売買の残代金に上乗せして買手より受け取ることで、実質的に所有期間に対応する分だけを負担することとなります。

 日割清算の留意点として、1月1日から納税通知書が送られてくるまでの間など、固都税の税額が分からない間に不動産の引き渡しを実行する場合は、前年の税額で日割清算をするか、不動産の引き渡しをした後、固都税の額が判明した際に日割清算をするかなど、清算方法をあらかじめ決めておく必要があります。その上で、その内容を不動産の売買契約書に反映させなければいけません。

 なお、固都税の計算をする基となる固定資産税評価額は、3年に1度評価替えが行われます。この評価替えにあたる年や、税制改正によって税率・軽減の特例の内容が変更された年などは、前年度の税額と大きく異なる場合がありますので、清算方法の決め方にも注意が必要です。

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 会社への貸付金が将来相続財産となり、相続人から返還請求権の行使を受けたときに会社が返済できるよう、会社側が今から準備できる方法があれば教えてください。

 私が経営する会社へ私の個人資産から金銭を貸し付けています。会社側に返済資金の余裕がなく、貸し付けたままですが、この状態で私が亡くなったとき、この貸付金は私の息子が相続により取得することになります。息子は会社とは無縁のため、このようなことになったとき、貸付金の返済を会社に対して求めること(返還請求権の行使)が容易に予想できます。ただし現状のままでは会社として返済することは難しいため、将来のこのような事態に備え、今から会社が準備しておくと良い方法はないでしょうか。

 ご相談者を被保険者とし、会社が死亡保険金受取人とする生命保険契約を活用すると、当該契約に係る死亡保険金を借入金の返済資金に充てられると考えます。

1.会社に対する貸付金は「相続財産」

  ご相談者が会社へ金銭を貸し付けるということは、会社側からみれば借入をすることとなります。

 これが問題となるのは、ご相談者が懸念されているとおり、貸付金の返済を受けないまま亡くなった場合です。

 会社に対する貸付金は「相続財産」として、遺産分割の対象となります。
 相続財産とはいうものの“債権”であるため、当該貸付金を相続した人の手元に現金は入らず、他方で相続税はかかってきます。
 貸付金を相続した人が当該会社の後継者や役員であるならばまだしも、ご相談のケースのように会社とは関係のない人が相続した場合は、返済を受けたいはずです。
 貸付金を相続した人が会社に対して返還請求権を行使した場合に、会社側に返済資金がなければ、会社の存続すら危うくなります。

2.返済資金に充てるための生命保険契約

 このような返済資金に充当する意図で、今から会社が準備しておくと良い方法としては、たとえば次のような生命保険契約を締結しておくことが考えられます。

  • ◆契約形態◆
  • 契約者:会社
  • 被保険者:ご相談者(金銭貸与者)
  • 死亡保険金受取人:会社

 このような生命保険契約を締結した後にご相談者が亡くなった場合は、会社側は受取った死亡保険金を原資に、貸付金を相続したご子息へ返済をすることができます。

 生命保険契約を締結する際、設定する死亡保険金の額を借入金の額と同等にするかどうかは、会社側が支払う保険料との見合いになります。生命保険契約に係る保険料としての支払資金は必要不可欠であるため、会社の資金繰りを十分に考慮した上で、準備されると良いでしょう。

 

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 今回は相談事例を通じて、相続人の廃除について、ご紹介します。

 私の長男は幼少期から素行が悪く、自宅内の金品を盗んでは勝手に売ったりし、今でも私達夫婦だけでなく、長女夫婦の所にまでお金を無心しにやって来ます。最初は抵抗しましたが、暴力を振るうので従わざるを得ません。彼の対応に家族は皆疲弊しておりますが、全く悪びれずに繰り返すどうしようもない長男です。私に万が一の事があった時に、長男に私の財産を渡すことは絶対に避けたいのですが、何か方法はありますでしょうか。

 推定相続人の廃除の手続を行うことにより、あなたの財産を相続させないことができます(民法第892条)。

 推定相続人の廃除とは、遺留分(最低限相続することができる財産、民法第1028条)を有する相続人について、その廃除を家庭裁判所に請求し、認められることにより、その相続人が相続人から除外される制度です。推定相続人の廃除は遺言でも行うことができ、その場合は遺言執行者が家庭裁判所へ請求をすることになります。

 推定相続人の廃除は、その相続人の権利を奪う強力な制度であるため、民法は廃除理由を

 ①被相続人に対して虐待をしたとき
 ②被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき
 ③推定相続人にその他の著しい非行があったとき

に限定しています。

 これらの程度について、判例は、「遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待及び侮辱並びにその他の著しい非行を行ったことが明らかであり、かつ、それらが、相続的共同関係を破壊する程度に重大であった場合」であるとし、その評価についても「被相続人の主観的、恣意的なもののみであってはならず、相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が客観的に重大なものであるかどうか」を必要としており、被相続人の個人的な感情のみで廃除することはできないものとしています。さらに、その評価は「相続人がそのような行動をとった背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考量したうえでなされなければならない」とし、その行動が相続人の一方的な非によるものであるのかどうかも判断基準としています。(東京高裁平成8年9月2日決定)。

 今回の場合、ご長男の金品を盗み無断で売却する行為は著しい非行であると考えることができ、またお金を請求し拒めば暴力を振るうという行為は虐待と考えることができますが、それ以外にも、行為の継続性や背景事情を踏まえ、廃除の決定がなされるかどうかが決まります。一度弁護士等の専門家に詳細を伝えご相談されることをおすすめします。

 廃除の際の留意点として、相続権が剥奪されるのは今回で言うと長男のみですので、長男に相続人がいれば、その相続人が代襲相続人になります。その他、長男が廃除された後、相談者ご自身がいつでもその取消を家庭裁判所に請求することができます。

 なお、推定相続人の廃除は、その本人と廃除される相続人との間にのみ効力が生じるものであるため、その他の親族関係、相続関係には影響しません。廃除の請求が認められたとしても、奥様の相続に関しても廃除がなされる訳ではありませんのでご注意下さい。

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 平成31年地価公示では、全用途平均が4年連続の上昇となり、地価の回復傾向が全国的に広がっています。

 先日、平成31年の「地価公示価格」が発表されたというニュースを見ました。今回の地価の動きについて教えてください。また、地価公示価格と土地の相続税評価額との関係はどのようになっているのでしょうか?

 平成31年の地価公示では、全国平均で全用途平均が4年連続の上昇となり、上昇幅も3年連続で拡大しています。地価公示価格の約8割が相続税評価額を計算する上での“相続税路線価”といわれていますので、今回の地価公示の影響を受け、地価が大幅に上昇している地点の付近については相続税路線価も大幅に上昇し、税額にも影響を与える可能性があります。

1.地価公示制度

 地価公示という制度は、地価公示法という法律に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が適正な地価の形成に寄与するために、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格(土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格)を3月に公示しているものです。
 地価公示の主な役割としては、以下のようなものがあります。

  1. 一般の土地の取引に対して指標を与えること
  2. 不動産鑑定の規準となること
  3. 公共事業用地の取得価格算定の規準となること
  4. 土地の相続税評価および固定資産税評価についての基準となること
  5. 国土利用計画法による土地の価格審査の規準となること 等

 なお、評価基準日から公示日までの間に、リーマンショックのような大きな経済情勢の変化や、東日本大震災のような天変地異級の大災害が発生したとしても、これらの事象は価格に反映されないことに留意が必要です。

2.平成31年地価公示の動向

 それでは、平成31年の地価公示による地価の動きを確認しましょう。
 全国平均では、全用途平均が4年連続の上昇となり、上昇幅も3年連続で拡大しています。用途別にみると、住宅地は2年連続、商業地は4年連続、工業地は3年連続の上昇となり、それぞれ上昇基調を強めています。
 東京、名古屋、大阪の三大都市圏をみると、全用途平均・住宅地・商業地・工業地のいずれについても各圏域で上昇が継続し、上昇基調を強めています。
 また地方圏をみると、全用途平均・住宅地が平成4年以来27年ぶりに上昇に転じました。商業地・工業地は2年連続の上昇となり、上昇基調を強めています。地方圏のうち、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方中枢都市では全ての用途で上昇が継続し、上昇基調を強めています。地方中枢都市を除くその他の地域においても、商業地が平成5年から続いた下落から横ばいとなり、工業地は平成4年以来27年ぶりに上昇に転じました。

 国土交通省では住宅地・商業地・工業地の用途ごとに、地価の動向と背景を下記のように分析しています。

(住宅地)

  1. □ 雇用・所得環境の改善が続く中、低金利環境の継続や住宅取得支援施策等による需要の下支え効果もあり、交通利便性や住環境の優れた地域を中心に需要が堅調。

(商業地)

  1. □ 良好な資金景気回復、良好な資金調達環境の下、次を背景に需要が拡大。
    1. 主要都市でのオフィス空室率の低下、賃料上昇による収益性の向上
    2. 外国人観光客の増加等による店舗、ホテル等の進出意欲が旺盛
    3. インフラ整備や再開発事業等の進展による利便性の向上や賑わいの創出 など

(工業地)

  1. □ インターネット通販の普及・拡大に伴う物流施設や工場の立地の増加等、全国的に工業地への需要の回復が見られる。

 東京・大阪・名古屋の三大都市圏から始まった地価上昇は、札幌・仙台・広島・福岡の地方中核都市へ、さらにその他の地域へと波及しており、国土交通省は全国的に地価の回復傾向が広がっているという見解を示しています。今回、最も地価が上昇したのは、外国人観光客の人気が集中するニセコを擁する北海道倶知安町の商業地で、年間の上昇率は58.8%にも及びます。一方、昨年7月の豪雨により浸水や土砂災害等の被害が生じた地域では需要が大きく減退し、豪雨災害の被害が大きく報じられた岡山県倉敷市真備町の住宅地が今回、最も地価が下落した地点となり、年間で17.7%の下落となりました。このように、マクロ経済の動向や自然災害などの影響が地価にも鮮明に反映されていることがみて取れます。

3.地価公示価格と相続税評価額との関係

 最後に、地価公示価格と相続税評価額との関係について説明します。
 地価公示価格は、相続税評価額や固定資産税評価額の基準になるとされています。相続税や贈与税を計算する際の土地評価に、相続税路線価を用いる場合があります。相続税路線価は、地価公示価格の水準の80%程度で評価されており、両者は密接な関係があります。
 そのため今後7月に発表される相続税路線価についても、今回の地価公示の影響を受け、地価が大幅に上昇している地点の付近については相続税路線価も大幅に上昇し、税額にも影響を与える可能性があります。

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 生命保険契約が「失効」すると死亡保険金を受け取ることができず、相続税の保険金の非課税の適用も受けられません。

 夫が亡くなり、生命保険について確認したところ、保険料をしばらく払わずに放置していた契約が見つかりました。
 保険会社へ問い合わせたところ、「『失効』しているため死亡保険金は支払われない。解約返戻金があるので相続人の方で所定の請求手続きをとってください。」といわれましたが、よく理解できませんでした。
 「失効」とはどのような状態なのか、また、相続においてどのように扱われるのか教えてください。

  1. <生命保険契約の内容>
    • 契約者(=保険料負担者):夫
    • 被保険者:夫
    • 保険種類:終身保険
    • 死亡保険金受取人:妻
    • 死亡保険金額:1,000万円
    • 解約返戻金:200万円

 「失効」は、契約の保障が切れた状態をいいます。この場合に支払われる解約返戻金は相続財産となり、相続税の計算上、保険金の非課税の適用はなく、全額が課税対象となります。

1.失効とは

 生命保険は保険料を支払わずに所定の猶予期間が経過すると、保険料自動振替貸付制度(※1)が適用されていない限り、保障の効力が切れます。これを「失効」といいます。

 「失効」状態では保障の効力を失っているため、死亡保険金(ご相談のケースであれば1,000万円)を受け取ることはできません。解約返戻金があればこれを請求することはできますが(ご相談のケースでは200万円)、解約返戻金は死亡保険金とは異なり、他の資産と同じように相続財産として扱われ、遺産分割の対象になります。
 また、「失効」状態では死亡保険金受取人の権利も消滅しており、死亡保険金受取人が誰に指定されていたかは関係ありません。

 

2.解約返戻金に対する相続税の取扱い

 上述のとおり、解約返戻金は相続財産となるため、相続税の計算において課税対象となります。
 また、解約返戻金は死亡保険金ではありませんので、相続税の計算上で非課税となる「500万円×法定相続人の数」を適用することはできません。

 

3.失効にならないようにするには

 契約が有効中に保険料が未払いとならないよう、保険料自動振替貸付制度(※1)を付加するなど、払込方法(経路)を変更することで、「失効」にならないようにする方法もあります。
 また、どうしても保険料の支払いが困難になったときは、減額(※2)、払済保険への変更(※3)、延長定期保険への変更(※4)などにより、意向にあわせた見直しを検討できる場合もあります。
 ただしこれらについては、保険会社や保険種類、解約返戻金の金額等により対応できない場合もあります。できるかどうかは、保険会社へご相談ください。

 

 せっかく相続対策のために契約しても、保険料を払い忘れて「失効」させてしまうと目的を果たせなくなります。被保険者が生存中であれば、未納分の保険料を支払い、かつ、健康状態について所定の手続きをとって要件をクリアすることにより契約が復活できるケースもありますが、相続発生後に復活させることは不可能です。生命保険は、加入時だけでなく加入後も、保険料の支払いに無理はないか、見直した方がよい点はないか、など定期的に確認をしながら、状況にあわせた無理のない契約にすることが「失効」しない、最も大切なポイントといえるでしょう。

  1. (※1)保険料自動振替貸付制度
    保険契約を有効に継続するために、解約返戻金の範囲内で保険料を自動的に保険会社が立て替える制度。
    … 立て替えられた保険料には保険会社所定の利息が付きます。
  2. (※2)減額
    保険金額を減らすこと。
    … 保険金額を減らした分、保険料の負担は軽くなります。
  3. (※3)払済保険への変更
    保険料の支払いを中止して、その時点の解約返戻金をもとに保険期間を変えずに保障額の少ない保険に変えること。
    …付加している特約は消滅する点に注意しましょう。
  4. (※4)延長定期保険への変更
    保険料の支払いを中止して、その時点の解約返戻金をもとに保険金額を変えずに死亡保障だけの定期保険に変えること。
    … 保険期間が短くなることもあります。付加している特約は消滅する点にも注意しましょう。

 

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 今回は相談事例を通じて、自筆証書遺言の有効性について、ご紹介します。

 父が自筆の遺言を遺して亡くなりました。内容は、自宅の土地は私にくれるというものでした。きちんとした人でしたので、本などを参考にして書いたのでしょう、すべて手書きで書かれていましたし、日付、署名、押印もありました。
 遺言を見つけたあとはすぐに家庭裁判所へ行き検認も済ませたので、この遺言を使って土地の名義を変えたいのですが可能でしょうか。

 遺言の内容(抜粋):「●●町の土地は長男のAに任せる。」

 遺言で財産を特定の人に渡すには、「渡すこと」を明確に記載しなければなりません。

 この遺言の場合、「任せる」と書かれていますが、「任せる」の意味は、「①するがままにしておく。放置する。②相手のするままになる。さからわず、なされるがままでいる。ゆだねる。③他の人に代行してもらう。委任する。④下襲の裾などを後ろに流れ引くままにする。⑤従う」です(広辞苑より)。任せるという言葉には渡すという意味が含まれておりませんので、この遺言の文面から、お父様が土地を渡したいという意思を読み取ることが可能かどうか、ということになります。

 判例では、「遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきもの」(昭和58年3月18日最高裁判決)とあるので、抜粋した条項のみでは可否について判断できません。

 なお、この遺言では登記ができないという場合は、ご自宅の土地について、通常の相続手続きを行う必要があります。そのため、全相続人で誰が取得するのかを話し合っていただき、遺産分割協議書を使って名義を変更することとなります。

 このような疑義がないように、物件や承継方法等を明らかにして記載するのが良いでしょう。特に自筆証書遺言は、形式的な要件はクリアしているにも関わらず、内容に有効性がないばかりに使えない、ということが起こりうるため、遺言の作成を検討する際には、専門家に相談する、公正証書遺言での作成を検討するなど、もう一歩踏み込んで考えていただくことをおすすめします。

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 「弔慰金」名目であっても、退職金として認められる部分や一定額を超える部分は、退職手当金等として相続税の対象となります。

 私の妻が、実家への帰省中の事故で亡くなりました。生前妻が勤務していた会社から死亡退職金(1,500万円)と弔慰金(150万円)を受け取りましたが、この弔慰金に相続税はかかるのでしょうか?

 被相続人の雇用主などから弔慰金などの名目で受け取った金銭などのうち、実質、退職手当金と認められる部分や一定額を超える部分は、退職手当金等として相続税の課税対象となります。

 弔慰金とは、被相続人の雇用主などが、亡くなった従業員を弔い、遺族に対して慰めの気持ちを込めて渡すお金で、退職金とは別に支払われるものをいいます。

 このように弔慰金は、その支払いの目的や性質から、通常は税金がかからないこととされています。しかし、名目は弔慰金であっても、実際には死亡退職金と同様と認められる場合や、実務上一定額を超える部分については、退職手当金等として相続税の課税対象となります。

 

1.「一定額」とはいくら?

 相続税の課税対象となる“一定額を超える部分”の「一定額」とは、法令上で明確な金額が定められているわけではありませんが、相続税の課税上の解釈についてまとめられている相続税法基本通達で、原則として雇用主等から受ける弔慰金や花輪代、葬祭料等(以下、弔慰金等)の合計額が以下の金額を超える部分について、退職手当金等として相続税の課税対象として取扱う旨が記載されています。

 そのため、実務上はこれに倣い、以下の金額を「一定額」として取扱っているのが現状です。

  1. ① 被相続人(奥様)の死亡が業務上の死亡であるとき
    →被相続人の死亡当時の普通給与(※)の3年分に相当する額
  2. ② 被相続人(奥様)の死亡が業務上の死亡でないとき
    →被相続人の死亡当時の普通給与(※)の半年分に相当する額

    (※)普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。

 ご相談の場合には、奥様の死亡原因が実家への帰省中の事故、ということですので、業務上の死亡でないと判断しますと、上記の②に該当します。
 そのため、たとえば奥様の普通給与が月30万円だったとしますと、

30万円×6ヶ月=180万円

が「一定額」となりますので、弔慰金として受け取った150万円については、その全額を課税対象とする必要はないと考えられます。

 

2.業務上か否かの判断

 上記1.の通り、業務上の死亡か否かで「一定額」の計算が異なります。この場合の、“業務上の死亡”について、業務中に亡くなった方の全てが“業務上の死亡”になるわけではありません。

 この“業務上の死亡”についても、相続税法基本通達で解釈が示されており、これによれば、直接業務に起因する死亡又は業務と相当因果関係があると認められる死亡をいう、としています。

 そのため実務上、業務上の死亡か否かの判断において、業務中の事故などの場合にはその因果関係が比較的明らかですが、突然死などの場合には、その原因と業務との因果関係を明らかにする必要がある点にご留意ください。

 なお、一定の法律等に基づく弔慰金等を遺族が受け取る場合は、退職手当金等に該当しないものと実務上は取扱われているほか、上記の「一定額」の計算にも影響を及ぼす細かな解釈も別途存在しています。実際に弔慰金を受け取る場合は、税の取扱いについて当事務所へご相談ください。

<参考>
 相法3、相基通3-18、3-19、3-20、3-22、3-23、国税庁HP「№4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い」

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